走り幅跳び
子供たちへ :

エイジは、陸上部じゃない。
第一、陸上部なんてない。
でも地区の陸上記録会には、陸上部として出る。

水泳記録会も同じ。
田舎の小中学校の地区大会 (=郡の大会)
だから、いい加減なもの。

陸上では、100m 走とか走り幅跳びに
選ばれていたから、放課後練習。

小学校の時は、まだクラウチングスタートは
珍しく、立ったまま 「 ヨーイ!」 と構えて
「 ドン!」 で飛び出す。
全然速くないのが自分でわかる。

走った後は、体育館の裏にある寂しい砂場で
走り幅跳びの練習。

先生もコーチもいない。
いたって、教えられない。
自己流で走って飛ぶのみ。

踏み切り板を超えないように、砂場から逆走して
自分のスタート地点を探る。

砂場には、エイジともうひとり、黙々と走っては
飛んで練習をする同級生がいた。
彼女は、小柄だけど、すばしっこいからという
エイジとまったく同じ理由で選手に選ばれていた。

10才になるかならないかのふたりは、
ほとんど口はきかないけど、お互いをちゃんと
見てて、踏み切り板から足が出れば、
教え合って、距離もお互いに測り合う。

彼女は、3メートル20とか30あたり飛んでた。
エイジもそれより30センチばかり多いだけで
ふたりともわかってた。
「 こんなんじゃ、全然勝てない 」 と。
でも、練習はやんなきゃ。

運動場から離れた、その静かで寂しい砂場で
「 タッタッタッタッ!」 と、時々助走する音がする。
当時の運動靴は、「ペースセッター」 と呼ばれて
いて、ゴムでできた底が薄くて、側面も薄い
ペラペラの布でできていて、頼りないもの
だったけど、それを履くと
「 これは試合用だから 」 と少し気合が入た。
(まだ Nike も adidas もない)

「 タッタッタッタッ!」 のあとは 「 バッ!」 という
地面と板を踏み切る音。
そのあとは 「 ザザザ!」 みたいな着地音が
体育館の壁に響く。

彼女が助走するとジャンプまでエイジは
黙って見ていて記録を測る。

すると今度は、彼女が見てくれる。
彼女は、いつも一生懸命で、疲れていても
いやな顔をしなかった。
彼女がいやな顔をするのを保育園から
中学校の間に、一度も見たことがない。
人にも優しくて、心のきれいな子。

何度も何度も砂場に着陸し、足もおしりも
腕も背中もクビも砂まみれで、
髪の毛の中も砂だらけになって、
頭から砂をパンパン!って
払い落とすのを手伝った。

がんばる彼女のおかげでエイジも
練習に実が入った。

きょうは、車であちこち移動しながら
あの走り幅跳びの練習のことを
何回も何回も思い出した。

彼女の名前は、逢坂 (おおさか) まゆみちゃん。
きょうの午後4時すぎにうどん屋さんで
出会った幼なじみから知らされた。
「 ひと月くらい前、まゆみちゃんがガンで
 死んでしもうた 」 って。

きょうは、うどんの味をまったくおぼえてない。

  ==

まゆみちゃんのお父さんとエイジの親父も
同級生だった。
みんな同じ小学校。
お父さんのショックの受けぶりは、大変だと聞いた。
そりゃあそうだと思う。
あんな天使みたいな人は、珍しい。

  
  ● 読者から ●

吉川さんの、陸上のお話
一生忘れることはありませんね。
その方も吉川さんに会って
色々お話したかったと思います。
悲しい出来事がありましたね。

  ● 同級生から ●

そういえば、砂場で練習してたね。
情景が思い浮かぶ。
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by fighter_eiji | 2011-09-04 00:03 | Children’s Times
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