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シチリアのファミリア
「島だから迷っても島の中」 とのんきな私は地図も見ないからどんどん分らなくなった。目的地である街タオルミーナが見つからない。
ここはシチリア島、2002年7月のこと。
夜も深まり“この港町かも知れない”と車を乗り入れた石畳の道が海に向かってのびている小さな町。
3軒ほどの食堂の明かりが屋外のテーブルで食事する客を照らしていた。

レンタカーの窓をおろして、歩道の2人連れの子供たちに尋ねた 「タオルミーナ?」。思いがけない異人からの質問に興奮気味のふたりは坂を数メートルくだったところのテーブルで食事中の両親のところに駆けて行った。
日焼けした顔のお父さんが近寄ってきた。私は再度 「タオルミーナ?」。細い顔のパパはちょっと考えて頷くと、私に 「待ってて」 という合図をして食堂に戻った。1分もすると彼はどこからか車を出してきて、家族全員が白い小型フィアットに乗り込んだ。食べ始めていた食事はそのままにして。

石畳を登る方向にゆっくり走り始めた彼について行くため、私は車をさっき下りてきた方向に向きを戻した。300mほどの坂道を上がりきると、右に折れ、白いセンターラインだけがライトに浮かび上がる道を、開いた窓から真夏の夜風をあびながら10キロほど走っただろうか。他の車には1台も出会わない。「こんなに遠くまで案内してくれるなんて・・」 一生忘れない体験をしていることを実感しながら前方のテールランプを追い続けた。

上体を回し後部座席からありとあらゆるチョコやキャンディをかき集めて袋に詰めた。
やがて暗闇の先に高速道路の入口が見え、道案内のフィアットはやっと止まることができた。運転席のパパが窓から出した左手で入口を指した。フィアットの横を通過する時 「グラツィエ」 と私は子供たちに窓からキャンディの袋を手渡した。中身をのぞいた笑顔の子供たちがもっと大きい声で 「グラツィエ!」。都会の生活では見かけなくなってしまった純粋な笑顔にまた心を打たれた。

暗闇のハイウェイをさらに20キロほど走ったが、私の心には光が満ち溢れ、本当に幸せだった。

それ以来、迷っている人の道案内は行先まで一緒に行くことにした。特に国境などというもので隔てられてしまった異国の人たちには親切に。シチリアの家族がくれた幸せが少しでも世界に広がってほしい。それは平和な世界への窓口だと信じています。
石畳の街のファミリー、きょうもあそこで食事しているかな?



●○● 読者のコメント ○●○

いいですね。暖かい。
こんなに親切にされると住みたくなるよね~~
by fighter_eiji | 2007-11-01 08:47
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