子どもたちへ :
街から少し外れた住宅街にある家族経営の
クリーニング屋さん。
クリーニングの量は、たいしたことなさそう。
だからクロネコヤマトの宅急便を扱ったり
切手を売ったりしている。
小さなカウンター越しの奥にはミニサイズの
畳部屋があって、おじさんとおばさんは、小さいテレビが
置いてある右の方を見ている。
手前の敷居の上に座っているおばさんの右足には
つっかけサンダルがぶら下がっている。
「 こんにちは 」 と言うと、おばさんが気がついて出てくる。
おじさんは、ピクリとも動かない。
その光景は、ベトナム戦争やドルショックや浅間山荘事件を
越えて30年は確実に続いた。
なんにも変わらずに。
ある時、葬式があって、おじさんは亡くなったらしい。
数年後、おばさんも。
小さい頃、店の前で三輪車やキャッチボールで遊んでいた
息子とその奥さんが引き継いで10年ほど経つ。
奥さんは、畳部屋の敷居に腰掛け、片足にサンダルを
ひっかけテレビを見ている。
奥では、夫がテレビを見ていて 「 こんにちは 」 と言っても
ピクリとも動かない。
いつ行っても同じ光景。
表の路地では、夫婦の子供がふたり遊んでいる。