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エスピノとの出会い
「エスピノ選手との最初の出会いを知りたい」
と何人もの方から言われたので、
以前書いたものを再現します:

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* エスピノとの出会い − 2012年7月5日、沖縄
 
「I'm very sorry / 本当にごめんなさい」
エイジがそう言うと、チャンピオンを含む
3人の東洋ランカーのボクサーたちと
そのコーチやマネージャーの合計6人の
タフガイたちが沈黙した。
「マシンガンを持って、あんたたちの国に
乗り込んで、大勢の人たちを殺した日本軍
の責任は、俺にもある」
とエイジが話したのは、試合前に泊まっている
ホテルの屋上。
試合前日の計量が終わった直後。
選手たちは、やっとジュースを飲めて
食事ができる嬉しい時。
屋上には、夏の日差しが照りつけ、海風が
選手の T シャツや髪の毛をなびかせる。

「いやあ、いいんだよ。俺たちは、
もうあのことは、忘れたよ」と、エイジの肩に
手をかけながら、いつも笑顔の
39才のマネージャー。
表情が優しい、一番、長身の別の
マネージャー、ジュンは、
「そうだよ。彼らだって命令されてたんだから」
ボクサーだった顔つきのコーチは、
優しい顔になって
「そう、だからあんたが謝ることは、ないさ」

「いや、どんなに謝っても足りないんだ。
ひとりの命も帰って来ないし、彼らを失った
人の気持ちは、癒せない。
殺した人のほとんどは、女性と子供の一般市民。
方法は、最悪」

一同は、押し黙る。

「時間が経っても・・・こんなことだって今
起こってるんだ」と、話を切り出すエイジに
みんな、顔を上げて聞き耳を立てる。

「ミンダナオの村に住む20才の女性が
突然、寝込んだまま何年も起きることもできない。
婚約者が日本軍に協力させられた
"マカピリ"の息子だとわかって
結婚が取りやめられたショックだ。
日本軍が悪意のかたまりで作った、市民による
スパイ、告げ口作戦 "マカピリ"では
善人が善人を裏切る。
その卑劣な方法が、フィリピンの社会を二分し
今でも人々を苦しめてる。
俺は、あの女性に謝りに行きたいんだ」

「どこの国だって、帝国主義のやつらを
追っ払ったけど、日本は、そのまんまだ。
今でもファシストの孫やひ孫が大臣になって
中身は、ひとつも変わってない。
沖縄の人は、やつらのせいでいっぱい
死んで、今でも基地を押し付けられて
あいつらは、今でも戦争商売人だ」

6人のフィリピンチームは、押し黙った。
やがて、長身のマネージャーが
「あなたみたいに考えてる日本人が
いたなんて、本当に驚いた」
若いマネージャーが
「あなたは、本当の人間だ」

30才になるベテランボクサー、エスピノが
急いで自分の部屋に走ったと思ったら
背中に「PHILIPPINE」(フィリピン)と
書かれたチームのシャツを持ってきた。
「お前は、俺たちの仲間だ」

試合当日の控室。
そのピークを過ぎたベテラン、エスピノは、
メインイベントに登場する。
他のふたりのボクサーも何十回も
使い古した茶色のボロボロのバンデージを巻く。
普通は、新品を巻いて、試合後は、切って捨てる。
でもタイもフィリピンもインドネシアの選手も
古いのを何度も使う。

上り調子で、若く、KO勝ちを重ねる日本人の
相手に比べて、戦績も体格もグッと劣る彼が
長椅子に横になって休んでいたが、
白い「PHILIPPINE」のシャツを着て試合の
準備をするセコンドのエイジを見つけて
上体を起こした。
「きのうから考えてたんだが、
俺はきょう勝ちたいんだ。
お前に会って、俺は、何かが変わった。
エイジ、教えてくれ、どうしたら勝てる?」
セミファイナルとその前の試合を闘った
ふたりの仲間は、どっちも負けた。

「オレには、日本にも専属のトレーナーが
いるんだぜ」
とメインイベントを待つエスピノは、仲間たちの
前で、エイジを赤いグローブで指差した。

試合が始まった。
若い日本人がどんどん攻めてくる。

「左の拳が折れた。頭に当たった時だ」
第1ラウンドが終ってコーナーに戻った
ベテランは、そう言った。
「左は、ボディフックで、右のオーバーハンドを使え」
とエイジ。

試合は、打ち合いだが、
体格、体力に劣る彼は劣勢。

第5ラウンド、お互いの右パンチがカウンターに。
若い日本人の方が、ダメージを受けてる。

試合中、リングサイドからエイジが
英語で言う指示は、長身のマネージャー、ジュンが
全部タガログ語に訳して叫んだ。

「両手を壊した・・打てない」
今度は、エイジにそう言った。
「わかってる。お前の手は、壊れた。
でもな、お前は、もう相手のハートを壊してるんだ。
彼は、倒れたがってるんだ。左のボディと
右のオーバーハンド。どうせ折れた手だ。
殴れ!」

終盤の第8ラウンド。
それがヒットして、若いホープがダウン。
カウント8で立ち上がったところでラウンド終了のゴング。

「いいか、すぐに行け!これがラストラウンドだと思え。
10ラウンドは、ない!」
9ラウンドに送り出すエイジは、エスピノにそう言った。

褐色のボクサーは、オーバーハンドの
右でひと回り大きい相手を倒した。
レフェリーがカウントを始めたところで
相手コーナーから白いタオルが投げられた。
ホープのまさかの KO 負けに場内はシーン。

「Thank you for everything !」
とリング上でインタビューに答えた勝者の
インタビューは、インタビュアーが英語が
わからないから、訳されることはなかった。

バスケットボール選手だった185センチの
マネージャーは、涙を浮かべながら
「あなたの言うとおりだったし、言うとおりになった。
俺は、あなたのチャリティボクシングを
フィリピンでやるよ。いつでも言ってくれ。
1週間の時間をくれれば、俺が準備する。
きょうは、あなたがいなきゃ、勝てなかった。
すごかった!」

ホテルに帰ると、今度はコーチが
「エイジ、待ってて!」と、
彼のジムの名前が入った黒の
チームシャツをくれた。
「俺たちは、また日本で試合したいよ。
必ず、あんたを俺たちのチームに入って
もらってね」

「これをあなたの活動に使って」
「あなたなしじゃ、勝利はなかった」
マネジャーたちは、エイジに何百ドルもの
お金を封筒に入れて手渡した。
エイジは、すぐにそれを彼らに返した。
「ありがとう。選手たちのために使ってくれ」

彼らにとっては、数千ドルの価値があるのに。
彼らのひとりとして、リッチじゃないのに。

大番狂わせを演じたエスピノは、
何度でも何度でもエイジと一緒に写真を撮った。

「エイジ、あなたは他の人たちと違う。人を平等に扱うから。 あなたのおかげで、エスピノは、人としてのプライドを持てたんだ」
6人のナイスガイたちは、翌朝、
飛行場から家族のもとへ帰って行った。

沖縄の海は、きれいに澄んだブルーだった。
by fighter_eiji | 2013-01-12 22:53
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