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下宿の隣人
ボクシングジムに通い、毎日ボコボコ、フラフラになって帰っていた下宿部屋。
となりの部屋の2-3才年上の人は、九州出身で、なんだか難しそうな国家試験に挑んで、勉強、勉強の日々だった。
でも、勉強量の多い人にありがちな退屈な人ではなかった。
メガネの奥の目が優しく、明らかにボクシングに興味津々だった。

目の周りを黒くして、鼻が腫れて曲がっている私を見て、「 すごいなあ。 大変だなあ 」 と言っていた。
「 それに比べたら、俺のやってることなんか、なんともないよ 」 と目線をやや下にやりながら。

「 なんかご馳走したいけど、食べちゃいけないんだもんね 」
「 はい。それに、(殴られて) アゴが痛くて、何も噛めないんです 」 と私。
「 じゃあ、今度の試合が終わったら何か食べようよ 」 と九州なまりのとなりの人は、故郷、熊本の家族と電話で話している時は、何を言っているのかさっぱり分からなかった。

試合が終わって、彼は約束通り、近所の寿司屋さんに連れて行ってくれた。
回転寿司なんかは、ほとんどなかった当時、寿司は本当に高級料理。
私は、東京に来てから3年間、一度も寿司は食べていなかった。

遠慮しているし、慣れないし、ほんの4-5個くらいしか食べなかったと思う。
米は、当時何年も食べないようにしていたから、ご飯抜きの寿司にしてもらった。
でも、値段はすごく高かった。
「 ごちそうになって、わるいな 」 と思った。

彼だって、お金がいっぱいあるわけがない。
風呂はないし、共同トイレの下宿なんだから。

でも、毎日殴られて帰ってくる私に、ご馳走をしようとずーっと思ってくれて、「 どんどん食べて 」 と言ってくれて ・・ あったかい人だったなあ。

そのあとも、また3年くらいは寿司は食べられなかった。
寿司の価格が、庶民の手に届くようになった今、寿司を見ると
あの隣人を思い出す。

あの人が、今どこでどうしているのか、まったく分からないけど、
もらった親切は、他の人にお返ししていかないと。
by fighter_eiji | 2008-03-26 01:24
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