応援の人達でごった返す柔道場。
通路の階段も人がビッシリと座っている。
その中に、
12才くらいの姉弟が、階段の中腹で並んで立っている。
ふたりは身長は低いけど、体重は80キロくらいで、
ふたりともまちがいなく柔道をやっている。
短い髪の毛を何ヶ所かで束ねた少女と、イガグリ坊主の少年。
ふたつの大きい背中のせいで、当然うしろの人は
何も見えない。
後方に立つ、やはり柔道のパパに何かを言われ、
姉弟は時々振り返ってパパに返事。
たまりかねた、ある女性客が 「 座ってもらえる?」 と、
ふたりに。
姉弟は、「 はい 」 とも 「 すいません 」 とも言わず
しぶしぶ座る。
みんな、喜んだ。
すかさず、ガラガラ声の柔道パパが声をかけた
「 おまえたち、座ると見えないだろ 」
うなずく子供たち。
「 じゃ、立て 」
命令どおり、再び立ち上がり、壁を建立する姉弟。
観客に視界が開かれたのは、ほんの数秒だった。
人の道をふさぐ親子にはいつ視界が開かれるのか?
柔道の本質 「 人の道 」 の。